私から歌が離れたときは。塩田明彦監督作品「さよならくちびる」

主題歌が秦 基博さん、挿入歌があいみょんさんという超豪華な音楽映画。
秦さんの主題歌といえば、2017年3月に公開された東伸児監督作品「 しゃぼん玉 」もよかった。

塩田明彦監督作品「さよならくちびる」

インディーズのデュオ・ハルレオの解散ツアーを綴ったロードムービー。合間合間に二人が出会い、ローディーのシマが加わり、3人の思いが絡み合うシーンが織り込まれるのだが、 レオの髪型で時期がわかるという仕掛けが面白い。

3人の関係性は複雑なのだが、それでも車中で3人が作る、つかずはなれずの空気がとても好き。語り合うでもなければ、目を見合わせることもない。それぞれが好きなことをして、狭い空間を共有する、不安定な関係のなかのおだやかさが、観る者にもなぜか心地よい。

この映画の良さは、音へのこだわりだ。風で木がざわめく音がいくつかのシーンで繰り返し登場するのが印象的。紙幣をめくる音だったり、硬貨が木の床に落ちる音だったり、何気ない音も温かみがあって素敵だった。

歌詞をクローズアップしているのも見どころのひとつ。ハルが車のなかでノートを広げて作詞をしていると、次のシーンで無音で歌詞がスクリーンに浮かび上がる。その歌詞が三人が過ごしてきた日々とかすかにシンクロするような、流されてしまいそうな、不安定さ。主題歌の歌詞にある「体温の上昇が伝わっている気がして 目蓋を開けるのを躊躇した」という表現も繊細で好き。物語にもよく合っていた。

テレビ局のインタビューで、ハルレオのファンが語るシーンがあるのだが、インタビューに答える若い女の子のカップルが象徴的に登場する。このインタビューのシーンがすごく長くて、それはどうやらアドリブだったそうだが、この長さにしたところが監督の思い入れというか、もうひとつの物語を成立させるぞ!という強い意志を感じた。

ヤマギワMVPはレオ役の小松菜奈さん。唯一無二の空気をまとう。ハル役の門脇麦さんと声質もよく合っていて、ハルレオの存在に説得力があった。

あとは、ちょっとしか出てなかった松本まりかさんもよかった。テレビドラマ「カルテット」でも思ったが、ちょいクセのある役がよく合っている。淡々としたシーンが続くこの物語のアクセントとして効いていた。

「さよならくちびる」は別れの曲だが、物語ではデュオとの決別、曲との決別でもある。浮浪者に肩をマッサージしてもらう水商売の女性を見て、ハルは「あんな人になりたい」と思う。その女性はハルのなかでいつのまにレオに変わっている。レオを思う根底にあったのは、憧れか、嫉妬か。

プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ

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