企業だけでなく個人の生活にも身近になった生成AI。何を相談しても、それらしい答えを返してくれる。
もちろん、回答の確からしさは疑ってかかるのが基本だが、「へえ、こんな情報もあるんだ」という気づきがあるのも確か。
デジタル空間を中心とする生成AIはいろいろな情報を提供してくれたり、愚痴をきいてくれたりするが、物理空間にあるものを操作することはできない。
こうしたことを実現する「フィジカルAI」はこれから注目の領域だ。
フィジカルAIとは
フィジカルAIとは、ロボットや自動運転車など物理的な実体を持ち、AIによって自律的に行動できるものを指す。
まさに、AIとロボットの融合。
実世界は、複雑で流動的。その中で正しい判断をする必要がある。
現在の生成AIは膨大なデータを学習することで、広範な知識と高度な知能、臨機応変な判断を可能としている(間違いがあるにせよ)。
フィジカルAIは、今までの生成AIの言語的な能力に加えて、視覚はもちろん聴覚や触覚も必要とされる。
必要となるデータ量は生成AIの比較にならない。一説には10万年分のデータが不足しているとされる。
現在、デジタル空間は進化しており、数年前とは比較にならないほど多くのことをデジタルで完結することができる。
しかし、物理的な動作を必要とするケースは依然として残り、それがボトルネックとなっている。
政府が投資に注力するフィジカルAI
政府は、戦略17分野で61製品・技術を選定し、優先的に支援する方針を示している。
中でも「フィジカルAI」など27項目は、先行して投資内容の検討が進められた。
政府が2026年3月に発表した「AIロボティクス戦略」によると、フィジカルAIの目標は「米中に並ぶ一角として、世界シェア3割、20兆円相当の市場獲得」。なかなかに強気な目標だ。
フィジカルではないAIは、周回遅れどころか、二周・三週回遅れになっている日本としては、ロボットを組み合わせることで、ものづくりの強さや、ものづくりで蓄積してきた「質の高いデータ」を生かしたいところだ。
国力のアップという面だけでなく、日本の社会課題解決に対する期待も大きい。
日本では、慢性的な人材不足に悩まされており、技術者の高齢化も進んでいる。
人間のように自由自在に動けるロボットにより、生産性向上や技術継承、危険作業の代替などが期待されている。
フィジカルAIに求められる新たな技術
フィジカルAIは、生成AIをロボットに搭載するだけでは実現できない。現実空間は人やモノの位置が頻繁に変わるし、明るさも時々で異なる。
不確実な要素がいくつもある中でAIが正しい判断をするために特に必要なのが、次の2つの技術だ。
- 空間知覚
- エッジAI・AI-RAN
「空間知覚」とは、視覚、聴覚、触覚など複数の感覚を統合し、空間の広がりや周りの物体との距離感を判断する力のこと。
ロボットでは、カメラやレーザーによって3D空間を認識する「LiDAR」、力覚・触覚センサーを組み合わせることになる。
どんなに空間を正確に把握できても、判断が遅れるとタイミングが合わないどころか、致命的なミスにもなりうる。
私たちが日ごろ使っているパブリックな生成AIはクラウドで動作しており、私たちはインターネットに接続して利用している。
しかしインターネットは「ベストエフォート」の世界。通信速度を保証できる仕組みではない。
それなら「インターネットを介す手前でAIの推論をさせてしまおう」というのが「エッジAI・AI-RAN」の技術だ。
エッジAIは、ロボットの中にAIを組み込む。今でもスマートフォンやスマート家電で利用されているが、ロボットを含めてこうした「端末」は容量や処理能力が限られている。
AI-RANは、インターネットの手前で処理能力のある携帯電話の基地局でAIを稼働させようという構想だ。
基地局は通信の最大量に耐えられる設備を備えているため、通信が少ない時はアイドリング状態になる。これでは高額な設備費がもったいない。
そこで空いている時間を使ってAI処理を行うことで、設備効率を高め、クラウドで行う処理の負荷を軽減し、なおかつ低遅延を実現しようというのがAI-RANの概要だ。
ロボットは人間と一緒に働くことが想定されるだけに、安全性という点でリスクはあるが、AIが目に見える形で動くことが、どのように社会を変えていくか、これから楽しみだ。
