上質な社会派エンターテイメント。藤井道人監督作品「新聞記者」

土曜の午前中に放映している「王様のブランチ」に映画ランキングがある。私がみるような作品は通常ランクインすることがないのだが、この作品は見事ランクイン!

藤井道人監督作品「新聞記者」

東京新聞社の望月 衣塑子記者が原案のこの作品。望月記者といえば、 官房長官記者会見での加計学園についての 質問が不適切ということで、首相官邸報道室が東京新聞社に対して異例の文書での抗議を行ったことでも最近話題になった。

望月さんは、加計学園問題で政府からの圧力を主張する前川喜平前事務次官 や、元TBS記者からの準強姦の被害を訴えた女性ジャーナリスト伊藤詩織さんへの取材も行っている。

この映画では、物語のなかで報道番組への出演という形で 前川さんと望月さんご本人が登場しており、作中には伊藤詩織さんをモチーフにしたエピソードが盛り込まれた。

ということで、この作品は問題作として公開時から話題沸騰だった。観客が入っているのに、不自然な早期上映打ち切りがされて、政府からの圧力だとささやかれたり、主役のエリカ役を引き受ける日本の女優さんが見つからなかったという逸話?もあったりと話題には事欠かない。

そもそも藤井監督は、善悪では説明しきれない人間の哀しみを描くのに長けた監督。社会派映画を撮るというイメージがまるでなかった。

しかし実際に観てみると、最初から最後まで、一切のムダがない緻密な物語構成が心を震わす。すべての役者さんが出番が多い少ないにかかわらず、その人でないと演じられないと思わせるほど物語の骨格の一部をきっちり担っている。このあたりは題材が違えど、さすが藤井監督だなあと思った。

ヤマギワMVPはエリカの上司役の北村有起哉さん。地味な役でも必ず独自の味を出す役者さんだと思う。松坂桃李さん演じる内閣情報調査室官僚・杉村の妻役の本田翼さんもよかった。特徴のない役だが、 不穏な内閣情報調査室と対極にある、平穏と安らぎ、守るべきものの象徴としてすごく効いていたと思う。

松坂桃李さんや、エリカ役のシム・ウンギョンさんの迫真の演技も文句のつけようもなく素晴らしい。シム・ウンギョンさんの骨太な役柄も魅力的だった。

唯一肩透かしだったのは、問題作でもなかったということ。私の大好きなドラマ「相棒」で描かれる警視庁や政府の陰謀とあまり変わらず、上質なエンターテイメントの域を出ない。 内閣情報調査室の部屋の照明も相棒の演出と似てたしな。「勇気ある」というほどでもないのかなと思った。

もちろん考えさせられるものはあるのだが、テーマのしっかりした作品ならどれでも言えること。望月さんや前田さんが出ているから反政府的イメージもあるのかもしれないが、これを本当に政府が圧力かけてるのだとしたら、なおさら日本の将来を憂いてしまうわ。

・・・と好き放題言っているが、この作品が面白く素晴らしいことには変わりない。 後半は息づかいの音を聴いているだけで胸が苦しくなった。

多様な人に観てもらい、その感想を聞きたい映画。

プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ

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