世界中を転々としながら働くことができる会社。「マイクロソフトを辞めて、オフィスのない会社で働いてみた」(スコット・バークン著・新潮社)

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リモートワークの記事を書く際に参考にしようと思って読んだ本。記事のネタはあまり得られなかったが、リモートワークの日常がどんなものなのか、様子がよくわかる本だ。

「マイクロソフトを辞めて、オフィスのない会社で働いてみた」(スコット・バークン著・新潮社)


昨今の働き方改革の盛り上がりで注目されているリモートワークだが、私が在籍していた企業(SI企業)でも、すでに導入されていたのを覚えている。まあプログラミングなら一人でできるもんね。

オフショア開発(海外に開発を依頼する形態)も契約の形態は違いこそすれ、リモートワークに近いのだと思う。

いろいろと経験して難しいと思ったのが、職場が離れると、必ず温度差が生まれるということだ。緊迫感だったり、一体感だったり、目に見えない雰囲気はリモートだと感じることは難しい。

また、リモートワークをしている人に取材したこともあるが、予想した以上に情報が入ってこないと言っていた。オンラインでの情報共有が進んでいるとはいえ、現時点ではリモートにいると情報格差は多かれ少なかれ生まれるのだろう。

でも、そもそも一人一人がバラバラな場所で仕事をしていたら、温度差も情報格差もなにもないじゃん、ということで完全リモートワークを実施している会社は、少ないけれども存在する。
オートマティック社もそのひとつだ。私もこのサイトで大変お世話になっているブログサービス「ワードプレス」を運営している。

オープンソース文化の根付くオートマティック社

著者スコット・バークンはマイクロソフトの元マネージャーで、経営コンサルタントをしていた。オートマティック社がチーム制に移行するにあたって、バークンはコンサルティングを行い、それが縁で創業者のマット・マレンウェッグと知り合った。

オートマティック社は創業当初から、もともと完全リモートワークだった。フラットな組織で、すべての社員をマレンウェッグが指揮していた。しかし、次第にそれが機能しなくなり、チーム制に移行する際に、筆者が誘われたというわけだ。

なぜオートマティック社は完全リモートワークだったか。ワードプレスは、もともと(そして今も)オープンソースプロジェクトだからだ。

創業前、マット・マレンウェッグは自分で撮りためた写真や文章を周囲の人とシェアするために、「カフェログ」というブログ用のソフトウェアを使っていた。しかし、メインプログラマーが姿を消し、更新が止まっていた。そして、ユーザーが自由に更新することも規定で禁止されていた。

ソースをコピーして、分岐させることは許可されていたため、カフェログのソースをもとに、便利でクールな機能を入れ込もうということでプロジェクトを立ち上げたのだ。それに賛同したのは、イギリスに住むマイク・リトルで、プロジェクトは海を隔てて2人で進められることになった。

そこから人が増えていったので、社員は自然と世界中に散らばった。ちなみに今も在籍されているかはわからないが、日本人もいる。

日本人スタッフ、高野直子さんのインタビューはこちら。
→ WordPress.comに携わる唯一の日本人女性、高野直子のワークスタイルとは?

「善意の文化」オープンソースプロジェクトとは

ここで、オープンソースプロジェクトについて紹介しておこう。

オープンソースとは、有償でソフトウェアの使用を認める方式と違い、ソフトウェアのソースコードを広く一般に公開する形態のことだ。誰でも自由にソフトウェアを使っていいし、ソースを自由に修正して自分好みの制御に変えることもできる。そして変えたソースコードは必ず公開して、誰でも使えるようにすることが義務付けられる。

これは著作権(コピーライト)ならぬ「コピーレフト」という規定となる。ソフトウェアに世界中のアイデアが取り入れられ、もともとの開発者が思ってもみなかった優れたソフトウェアに育っていくのだ。

これはソフトウェアの世界では結構広まっている。例えばOS「Linux」がそれにあたる。マイクロソフトが開発するWindowsはソースが公開されておらず、使用には料金がかかるが、Linuxはソースが公開されており、誰でも使える(一般的には、公開されているソースそのものではなく、ディストリビューターが保守をするソフトウェアを購入しているが、それでも安価だ)。そして世界中のエンジニアがソースに改良を加えている。

オープンソースにはそういった「善意の文化」というものが根付いており、その文化をオートマティック社は引き継いでいる。

この本から得られる学び

リモートワークの楽しそうな様子がよくわかる

オートマティックには、世界中を家族で旅しながら仕事をする人もいて、その稀有なライフスタイルを垣間見れるのは特別な体験だ。本の冒頭は、アテネで行われたチーム初の直接会合の様子から始まる。そのほかにも年に1度、世界のどこかで社員全員が集まり、1週間会合が開催される。

こうした会合の旅費、滞在費はすべて会社が負担する。普段は世界中でバラバラに仕事をしているメンバーが直接顔を合わせる機会は貴重だ。例えば社員全員の会合では、いくつかの開発プロジェクトを用意し、それぞれ好きなプロジェクトに参加して新しいサービスを開発する様子が語られる。

オートマティック社の文化がよくわかる

基本的にオンラインで仕事をするので、オートマティック社の仕事のやり方はある意味独特だ。まずEメールはほとんど使わない。連絡すべきこと、共有すべきことは全てブログに記載する。メンバーとコミュニケーションを取りたい時はチャットツールを使う。

社内では、とにかくテキストで残すのが基本だ。系統立ててもれなく文書で残すため、過去の経緯がよくわかり、引継ぎで困ることはないのだと先ほど紹介した高野さんがインタビューで言っていた。

しかもスケジュールもない。だからといってダラダラやっていいわけではない。あらゆる角度からマレンウェッグがデータを分析し、進捗が遅ければ檄が飛ぶ。では、何をクリアしたら怒られないのか。それは明らかになっていない。数値目標を掲げてしまうと、感度の高い優秀な人は離れてしまうからだ。

開発チームのマネジメントをやっている人に参考になる

本書はプロジェクトの進め方、チームビルディングにかなりのページを割いている。これらのことはリモートワークに限ったことではなく、開発チームのリーダー、プロジェクトマネージャーには参考になる内容だ。特に文化をベースとした仕事の進め方は、なるほどと思うことが多かった。

ここは注意!

普通の企業がリモートワークを導入したわけではない

オートマティック社は紹介した通り、オープンソースプロジェクトから生まれたので、オンラインでの開発が当たり前という環境にあった。だから普通の企業がリモートワークを導入するのに参考になる点はあまりないように思う。

そのため、本書もリモートワークをどう機能させるか?という視点よりも、チームをどう機能させるかに焦点があてられている。そもそもチーム制の移行が著者のミッションだったからどうしてもそうなってしまうのだが、リモートワークに興味を持っている人からすると、遠隔地で仕事をすることの問題点とどう解決しているか、をもっと深く扱ってほしいと思うだろう。

体系だった内容になっていない

基本的に作者の日記のような形式になっている。その分、社員やマレンウェッグとのやり取りはとても臨場感があって、楽しめる。マレンウェッグのマネジメントや、オンラインチームならではの手法など、けっこう充実した内容になっているにもかかわらず、話があちこちの飛んで理解しにくい構造になっている。

同じIT系の企業でも、メルカリやLINEのようにコミュニケーション重視の立場からリモートワークを採用していないところもある。また、YahooやIBMはリモートワークを廃止する方向にある。

そんななかで、リモートワークだけで会社が成り立つこの会社は貴重であり、新しい働き方を模索する人には、大きな刺激となるだろう。

プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ
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