会社員時代はピラミッド型組織って当たり前のように思ってた。この本は、歴史と伝統のピラミッド組織とは全く異なる概念の組織がすでにいくつかの企業で導入されている、ということを述べている。
「ティール組織」(フレデリック・ラルー著・英治出版)
ピラミッド組織は、上に行けば行くほど権限と責任が大きくなる。これはとても合理的で、だからこそ歴史も長く、現在でも多くの企業がこの組織形態を取っている。
ピラミッド組織の原型は本書によれば約1万年前に生まれた。力が強い者に配下の者たちが服従するという原始的な社会構造だ。これを本書では衝動型(レッド)組織と呼ぶ。戦闘地域や刑務所などでは今でもこの形態が存在する。
そこから組織が成熟していき、ピラミッドの形を保ちつつも上司と部下との関係は変化している。絶対服従で部下に命令する役割から、部下を良い方向へ導いていく役割へと変化したのだ。
そして次世代型組織形態として著者が定義したのが「ティール組織」だ。ちなみにティールとは、この本の装丁のような青緑色を指す。
このピラミッド型組織の欠点は、権限が大きな仕事に就くには上に行くしかないけど、上に行く人間は限られてくるということだ。しかし「必ずしも他の人を蹴落として社長にならなくとも、仕事を通じて社会に貢献したい」と考える人が多い、というのが著者の主張だ。
昔の奴隷制度にあったような「アメとムチ」から、組織が習熟するなかで「自己実現」へと指示命令系統が変化していった。・・・というのが有名なマズローの欲求5段階説。欲求が満たされるとより高度な欲求が生まれるというものだ。
自己実現は成熟した社会の中では誰しもが持つものであり、自己実現ができることにより個人の能力が引き出され、組織のパフォーマンスが向上する。
しかし、自己実現をピラミッド型組織に当てはめると、上の段階へ行く人は限られてしまう。いまいる以上の権限を与えられないままに限定的な仕事をせざるをえない人が出てくる。上に行くためには、周到な根回しのもとに熾烈な競争に打ち勝たねばならない。
また、リーダーの負担が重いのもピラミッド型の欠点だ。レッドのように絶対服従の原始的な形態ならまだよいが、今は自己実現を基準に部下が動く時代。部下一人ひとりの能力を引き出し、育てる負荷が上司に集中する。
そこで中間管理職をなくし、どの人に対しても大きな権限を与えましょう、というのがティール組織の根幹なのだと私は理解している。なかなか大胆よね。でも実際にこの考え方で成り立っている組織の事例が本書では紹介されている。
著者はどんな人?
著者のフレデリック・ラルー氏は、ベルギー出身。フランスでMBAを取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーで10年以上組織開発プロジェクトに携わる。この時に得た知見がティール組織の本の源になったと著者は言う。
その傍ら、コーチングスクールのThe Newfield Networkで学び、「学習」の領域でも知見を得る。
マッキンゼー退職後はコーチ、ファシリテーターとして独立した。その仕事を通じて大企業の組織のCEO、リーダーと深く議論するなかで、違和感を感じるようになり、健全で進化した組織の在り方について考えるようになった。
そこで世界中の次世代組織を調査してまとめたのが本書だ。以下のインタビューでは、著者のキャリアやこの本を出版する経緯について触れられている。英語だけど。
ティール組織とホラクラシー組織の違い
ホラクラシー組織はティール組織の一部とされている。どちらもピラミッド型ではなく、上司(中間管理職)が存在せず、チームが自主的に運営されるという点は同じ。
本書では両者の違いについてはっきりとは触れられていないが、ホラクラシーの場合は、厳格なルールが存在するのに対し、ティール組織は割とフワッとしているし、ピラミッド型の組織形態と混合できるという点が異なる。
日本だとキャスター株式会社が ホラクラシー組織 で経営されている。リモートワーカー主体の組織なので実現できたんだろうなあ。
600ページに及ぶ超大作。これがベストセラーになるなんて、日本も捨てたもんじゃない。分厚い本だが、事例が豊富なので興味深く読める。冒頭の組織形態の変遷も歴史を組織の観点から振り返るので、読んでて楽しい。
多くの人が関わる組織という形態。理想の組織とはどんな組織なのか、今こそ考えてみようではないか。