WOWOWで絶賛放映中らしい星野源主演のドラマの原作となっているのがこの本。
プラージュ(誉田哲也著・幻冬舎文庫)
2016年の秋に放映されたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でホシゲンが演じた津崎平匡は彼女いない歴35年だったが、ナチュラルなインテリアに囲まれたおしゃれな部屋に住み、オサレで爽やかなFLASH REPORTのシャツを着ちゃったりしてかなりイケてる感じ。
対して主演映画「箱入り息子の恋」での役はかな~りエキセントリック。最後はホシゲンがカエルにしか見えなかった。
とはいえ、この映画には詩がある。湿ったけむる雨のなかでカエルが鳴き、エンディングでは細野晴臣がボソボソと歌う。この歌が映画の世界観とマッチしまくりだった。
「箱入り息子の恋」(市井昌秀監督・2013年)
ホシゲンの役者としての魅力はお相手の女優さんを輝かせることだ。「箱入り~」で共演した夏帆のことを辛気臭い顔をしてるなーとずっと思っていたが、この映画では妙にエロくてむちゃくちゃカワイイ。ガッキーもコードブルーや掟上今日子の無表情な役より「逃げ恥」のほうが活き活きとしてむちゃくちゃ光っていたもの。
ホシゲンはまるで鏡のように女優さんから受ける光を反射してさらに輝かせることに長けている。
「プラージュ」の主人公は冴えない男子・貴生なのだが、合間合間しか登場しない宿の女主人・潤子の存在感がすごい。まるで貴生という鏡を通して潤子が見えているようだ。
著者・誉田哲也氏はどんな人?
誉田哲也氏は1969年東京生まれ。中学の時はデュラン・デュランのコピーをやっていて、英語で作詞をしていた。「疾風ガール」で登場する歌詞は自分で作詞したものらしい。そして30歳まで音楽を続けたが、椎名林檎の才能にショックを受けて音楽の道を断念。格闘技のレポートを書いていて文を書くことの楽しさに目覚める。
小説を書いて応募するも、落選続きの日々で逢坂剛氏の著作の後書きで視点の大切さに目覚める。このあたりは「プラージュ」でも反映されている。下宿するひとりひとりの視点で書かれていて、それが繊細に絡み合って物語を紡ぎあげている。なんでも登場人物をExcelで管理して時間軸ごとに行動をまとめているらしい。けっこうマメやね。
そのあたりの物語の作り方についてはこちらの記事が詳しい。「作家の読書道 第92回:誉田哲也さん」
プラージュのあらすじ
貴生は覚せい剤取締法違反で執行猶予中。ある日火事でアパートを焼け出され、藁をもつかむ思いで保護司の元にへ行く。そして保護司の口ききで元受刑者を受け入れているシェアハウス「プラージュ」を紹介される。そこはカフェ兼居酒屋が併設され、各部屋にドアがなくカーテンで仕切られただけの場所だ。
貴婦人のような紫織、美少女の美羽、人懐っこい通彦、ギターの上手な友樹、真面目な影。シェアハウスの住民は誰もが影を持っている。
そしてその中には元受刑者を装って潜入している記者がいる。その記者はある事件でいったんは有罪になりながら証人が証言を翻したことにより無罪となった男の事件を追っている。そしてその無罪となった男がシェアハウスにいるという情報を手に入れ、記者自身もシェアハウスに潜入することを決意する。果たして記者自身は誰なのか、無罪となった男は誰なのか--。
さまざまな物語が調和しながら進行する構成の巧みさ
各住人はどんな理由で罪を犯し、そんな思いで今を生きているのか。各人の人生と記者の調査が複雑に絡み合う。元受刑者という身でさまざまな世間での不利を受けながら、社会に関わりを持ちながら生きていくことの喜びが丁寧に描かれている。そして、犯罪者には犯罪を犯させない環境を作るのではなく、犯罪を犯さないという良心を持つことが大切だという信念であえてカギをつけないシェアハウスを作った潤子。
通彦や友樹、彰など男性陣の描写は若干甘い気がするが、貴生のキャラづくりはうまい。不器用で、一生懸命に生きている姿には共感を覚えてしまう。ホシゲンはこの脚本を最初に見たときに貴生のキャラは苦手だなと思ったらしい。だが、脚本を読み進めていくうちに次第に好感を持つようになったという。個性のないのがこれまたいい。個性のない分、貴生を通してみる潤子の住民への愛情がそこかしこで感じられ、存在感が増すからだ。
この鏡のように潤子を輝かせる貴生の存在がホシゲンにはまっている。複雑にからみあっている物語なので、むしろ映像のほうがわかりやすいかも。中盤から終盤にかけてのまったりした進行が残念なところだが、随所随所で胸がじーんとする。この良さをドラマでも活かしているといいな。
働く喜び、今を生きる喜びをしみじみと感じさせてくれる小説。