マウンドから見た風景は絶景だった。「虹のふもと」(堂場瞬一著・講談社)

堂場作品は警察ものとかもあるのだが、やっぱりスポーツものが好きだな。

「虹のふもと」(堂場瞬一著・講談社)

メジャーでも活躍した川井投手は45歳になって、ハワイの独立リーグで投手を続けている。そこへGM補佐として就任したのが、離婚してから長年会っていなかった娘の美利だ。設備のよくない球場、態度の悪い若手選手、自分に憎しみを持っているかのような 美利 。それらを飄々とかわして川井は今日もマウンドに立つ。

堂場作品の真骨頂は、競技中の臨場感。どうやって書いたらこの雰囲気が出せるのかなあ。対戦する相手の様子を克明に描写し、それに対して主人公がどう考えてどう動いているのかを鮮やかに描き出すことが大きいのだと思う。自分がマウンド立っているかのような緊張感をぜひ味わってほしい。

独立リーグが舞台なのもおもしろい。普段メディアに取り上げられることも少ないし、どうやってマネタイズされているのか今までわからなかったが、この小説のおかげで垣間見ることができた。川井のプレイヤーとしての視点と、美利の経営側からの視点独立リーグを描きだすことで、物語に厚みが出たと思う。

もうひとつの軸が美利と川井との親子関係だ。美利は女子野球でワールドカップに出場経験もあるトッププレイヤーだったが、怪我をして選手をあきらめ、フロントへ転換した。

かつてはメジャーリーガーだった父へのあこがれと、幼いころに捨てられた憎しみ。投手経験者ゆえの父への選手としての批判。さまざまな感情に揺れ動く美利がとても魅力的。ストーリーが全般的に大した展開もないのに飽きさせないのはここに秘密があると思う。

そして物語の根底にある「なぜ競技生活を続けるのか」という問いかけ。答えは最後の方で明らかになるのだが、とっても意外だった。でも川井らしいなあ。年寄り年寄りと自分で言っているわりには、老化を深刻には考えておらず、どっしりと、のんびりと構えているキャラクターがとても好きだ。

巻末には山本 昌・元投手との対談。山本さんはプロ初の50歳代での登板を達成した、まさにこの物語の現身といっていい。ここでは山本さんご自身の「なぜ選手にこだわったのか」という答えが書かれている。個人的には40歳すぎてからのトレーニング方法がとても興味深かった。

ハワイの雨上がりにいつも現れる虹のふもとには何があるのか。著者が紡ぎだすマウンドからの風景は、あなたの目にどう映るのだろう。

プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ

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