いやはや、なんとも摩訶不思議というか謎の映画。同い年の同士が立ち上げた映画製作ユニット「One Goose( ワングース )」の第一弾作品となる。
田中征爾監督作品「メランコリック」
なぜ謎なのかというと、登場人物の振る舞いに動機がないということだ。物語のなかでは、登場人物がいろいろなことを経験して、いろいろなことを考えてたからその行動に至っているはずで、だからこそその人に感情移入できるのだ。
よくドラマで展開を速くしたいがばかりに、登場人物に飛躍した行動をさせることがあるが、それを見るととたんに興ざめしてしまう。
だからその行動に至るまでの細やかな心情の描画を積み重ねる作品がいい作品だ。と私は信じて疑わなかったが、それをあっさりと否定された感じ。というか、違う世界もあるんだよ、と教えてくれた感じ。
まず、主人公の和彦がなぜお風呂屋の裏の仕事に執着するのか、まったくわからない。
それでもかつての同級生と居酒屋でデートして嬉しそうな様子をみるとよかったじゃん、と思うし、同僚の松本に「危ない橋を渡ってんのに、のんきに彼女とか作るな!」と怒られているのを見ると、なぜだか微笑ましいのだ。
同じ思いなのか、かなりエグイ設定にもかかわらず、周りのお客さんも楽しそうに笑っている。自分も観終わって何故かほっこり。なんなんだ~ この世界は。
物語が荒唐無稽でも、登場人物の振る舞いに説得力がなくても、成立する世界はあるということが奇跡に思える。
ヤマギワMVPは和彦役の皆川 暢二さん。この異次元の世界を成立させるのはあなたしかいない。キャラクター造形も秀逸で、同級生や同僚にこんな人いたよなーという感じの浮世離れ感があり、でもご本人の素顔はかなりのイケメン。
松本役の磯崎 義知さんも役どころがとても効いていた。アクションもかっこよかったし、うどんをすするシーンもよかったなあ。
ユーモラスでは決してないのに、ユーモラスな映画。くれぐれも倫理観を前提として観ないでね。頼んだよ。