遠い昔の苦い胸の疼き。石橋夕帆監督作品「左様なら」

JK映画(と私は読んでいる)は今まで私にはついていけないんじゃないかと思っていたが、この映画を観てはまってしまいましたわ。

石橋夕帆監督作品「左様なら」

学校という閉鎖的な空間で、自分の殻に閉じこもった由紀が少しずつ心を開いていく物語。いじめが扱われているのだが、描写は厳しくない。

「3年A組」というドラマがあった。余命僅かの担任教師が教室に生徒たちを監禁し、学校では教えてくれないことを教えるという物語。これはドラマという長い尺のなかで、この回はこの生徒、この回はこの生徒というように、それぞれの生徒をクローズアップすることで、生徒のキャラクターを描写した。

この作品ではそれを2時間の中でやってのけた感じ。

尺の制約はあるので、物語にほとんど登場しない生徒もいるのだが、ただ黙って席に座っているだけでも、しっかりとキャラクターがある。監督の手腕を感じさせるし、役者さんにとっては誰でもチャンスの道が開けてくると思う。

すみずみまでキャラクターを描き分けることが、作品の可能性を大きく広げるんだと思った。

物語自体はありそうでなさそうな設定だな、と思う。

たしかに由紀はいじめられているのだが、幼なじみやらクラスメートやら近所の大人やらが手を差し伸べてくれる。こんな都合のよいことがあるもんか。と思いながら、救いのある環境のなかで感じる苦い胸の疼きを感じる。それはどこかしら甘やかに過去の忘れ去られた記憶を揺さぶる。

この辺も計算してるだろうなあ。心憎いぜ。これはたぶん原作者であるごめんさんの世界観にも通じている。

ポスターにもある海辺のシーンも素敵だが、高校の屋上で土砂降りの雨を眺めながら由紀が一人佇むシーンがとても好き。海の見える教室も美しい。

高校の屋上で雨の音を聞きながら、由紀の心は完全にシャッターを下ろしていたんだと思う。それが救いの手を差し伸べる人達のおかげで少しずつシャッターが開いていく。そんな物語だと思う。

ヤマギワMVPは由紀役の芋生悠さん。かわいい。かわいい。かわいい。友人を失う前のどこかしら闇を抱えてでもほがらな雰囲気から、陰気さを隠し切れない雰囲気に演技を変えているのもよかった。

人を寄せ付けない綾役の祷キララさんや皓太役のこだまたいちさんの空気感もいい。ナイスキャスティングとしかいいようがない。

上映後は石橋監督と、蓮役の田中爽一郎さん、治役の塩田倭聖さんと共に登壇。合宿して撮影した話をしていた。

アップリンク吉祥寺には原作となったごめんさんのイラストや映画のオフショットの写真を展示してある。こういうのをみると、映画の余韻にひたれるよね。

プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ

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