エンドロール見てたら原作の大石圭さんの作品は角川ホラー文庫だった。でもホラーという感じはまったくなかったな。
R18なので観る人を選ぶであろうが、それでも監督の鬼才ぶりを観てほしい気持ちがある。
安里麻里監督作品「アンダー・ユア・ベッド」
大学生の時に、教師に名指しされ、困っていた直人を後ろから「三井くん」と声を助けてくれた千尋。
30歳になったとき、雨に濡れた絨毯から湧き上がる匂いがそのころの彼女の声、香りを呼び覚ました。
そして彼女がいまどこにいるのか調べ、彼女の近くに住み、彼女のベッドの下に忍び込む。まぎれもなく悪質なストーカー案件なのだが、これが観る者誰しもが「至高の愛」と受け取っただろう。
かなり過激な暴力シーンが多く盛り込まれて、観ていて辛かったのだが、監督のインタビューで「暴力シーンは引き算をして直接描写しないようにした」と言っていたのが意外だった。
確かに言われてみると、ベッドの下のわずかな隙間からの描写や、音だけの描写では多かった。視界をさりげなく限定して五感に訴えた演出によって、胸にギリギリ迫る感情が湧き上がったのだと思う。
千尋を思い出した時の、雨の音、しずくのシミ、立ち上る匂いがトリガーになるシーンも五感を刺激しており、なんとも巧みな演出なのだ。
監督のインタビュー動画はこちら。とてもきれいな方ですわあ。映倫の人に「これは人間ドラマですね」と言われたのが面白かった、というエピソードが興味深い。
ヤマギワMVPはの西川 可奈子さん。身も心も捧げつくした壮絶な演技なのだが、何も考えてないお気楽女子大生の頃が最高に可愛らしくて好き。女子大生の可愛さが後のシーンに効いてきたと思う。
あえていうなら、特異の存在感を放つ高良 健吾さんが演ずる主役に、まったく存在感のない設定をしたぐらいかなあ。誰からも相手にされないから「名前を呼ばれたい」という強烈なアイデンティティを持つにいたるのだが、高良さんの画面が輝かんばかりの強烈な存在感を前にして説得力がなかった。
もちろん、この作品の世界観は彼でなければできなかったわけだけど。ラストシーンの表情は今でも記憶に残る。
過激な暴力シーンはこの作品には不可欠なものだ。そこに異論はないのだが、なんとも観るのが辛い。じゃあ観なければいいのだが、監督の映画は観たい。
監督のソフトな作品も観たい今日この頃。