どんな思いで鳴らしたのか。深田 晃司監督作品「よこがお」

訪問看護師として周囲からの信頼が厚い市子が、訪問先の家族で介護福祉士の勉強もサポートしていた基子に偽りの情報を流布され、すべてを失った末に復讐に手を染める物語。

深田 晃司監督作品「よこがお」

復讐といっても、とてもささやかなもの。そして無意味なもの。でもその復讐に生活のすべてを賭ける。

途中途中でドキッとするような、唐突なシーンが登場する。例えば市子が街の中を犬のように四つ足で走ったり。そのシーンがなぜ存在するのか、いろいろと想像するのが楽しい。

子ども部屋の押し入れのシーンがあって、とても印象的だった。家族になるはずだった子の部屋を妄想していたのかな。子どもには見せられないことを子ども部屋ですることで、失った幸せな未来をあきらめたくて自ら汚そうとしたのかな。

ヤマギワMVPは基子役の市川実日子さん。かなり難しい役で、いまだに私にはその行動が理解できていないけど、それでも物語にしっかり収まっていると感じられるのは彼女の技量ゆえだと思う。

和道役の池松壮亮さんは、どの作品に出ていても全部いい。 市子に少しずつ惹かれていく感情の移ろいが繊細に表現されていたと思う。

独創性にあふれるシーンの数々だが、テーマが平凡というか、よく扱われるものだったところが気になった。もうちょっとひねった方が監督の感性が生きると思うんだよな。

最後のシーンはセリフはなく、 市子の表情と行動だけで表現されている。最後のバックミラーに移る市子の表情。何かを演じようとする気配もなく、でも瞬間瞬間で表情が変わっている。この絶妙な表現がタイトルにも通じているのだろう。

そして深田監督こだわりの音。「家庭で観ていたらあわてて音量を下げるような特殊な音設計」と事前には知ってはいたが、それでもビクッとした。あの音をどんな思いで鳴らしたのだろう。

市子の着ている服も素敵なので注目してほしい。細部までこだわりぬかれた作品。

プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする