自己啓発の本は巷にあふれていて、「みんなよりどころを求めてるんだな~」と思う今日この頃。その気持ちはよくわかるし、こういったジャンルの需要はひしひしと感じるが、どうにも私には合わない。というか全く好きではない。この本も家族が「これ面白いよ!」とすすめてくれなかったら買わなかったろうな。
「夢をかなえるゾウ」(水野 敬也著・飛鳥新社)
ある日目を覚ました「僕」の枕元にいたのは、関西弁をしゃべるゾウ、その名もガネーシャ。華々しく成功した人の輪に入っていけないふがいない自分。悶々とした日々を送る僕を助け、成功する方法を教えてくれるという。藁にもすがりつきたい僕は、ガネーシャを受け入れる。かくしてゾウとの世にも奇妙な同居生活が始まった。
極上のエンターテイメントに仕立てる技
ガネーシャと僕との軽妙なやりとりがこの本を魅力的にしている。ガネーシャが僕に邪険にされつつもカワイく絡み、最後に良い教えをズバっ。楽しく読みながら最後にためになる。う~んなんて素晴らしい本なんだ。
しかもサウスウエスト航空が同業他社と広告の内容が被った際に、創業者ハーブ・ケレハーが同業他社の会長に腕相撲で勝負を持ち掛けた、なんていう実際にあった面白エピソードをそこかしこに散りばめる心憎い演出。実例なので知識欲は満たさせるわガネーシャの教えに納得感があるわで、ページをめくる手がとまらない。ちなみに腕相撲はケレハーが惨敗したらしい。広告やめたのかな。
ガネーシャが最強のキャラクターなのは間違いないが、ちょっと頼りなくて、でもガネーシャに冷静にツッコミを入れる僕がいてこそ、ストーリーも盛り上がるというものだ。ガネーシャの教えは「自分の靴を磨く」とか「人気店に行き人気の理由をさぐる」とか、すべからく面白味に欠けるのだが、ネタを綿密に集めて、キャラクターをしっかり造形し、軽やかにストーリーを運ぶとこんなに極上のエンターテイメントになる。いろいろと学ぶところが多い本だ。
「成長したつもり」でいいんだぜ
いつも仕事でお世話になっている方が「自己啓発本は自分が成長した気分になるだけだ」と言ってたっけ。確かにためになる教えって一時のモチベーションは上がるが、その後すっかり忘れてしまうものね。残念ながらこの本もその域を出ない。
でも成長したつもりで上等だよ。だって楽しいんだもの。モーツァルト、イチロー、シャネルといった幅広い分野の偉人の考えも勉強できるからお子さんにもおすすめ。私のように自己啓発本アレルギーの方にも一度読んでみてほしいな。明日からトイレの掃除を一生懸命するようになるかもしれないから。
楽しいって価値があるということを教えてくれた本。