NHKでドラマになり、話題を呼んだ本。
「女子的生活」(坂木司著・新潮文庫)
本のデザインもカワイイ。この本の世界観によく合っていると思う。
この本をすでに読んだ知人に「どうだった?」と聞いたら「いつもの感じだよ~」と返された。
いつもの感じとは、このシリーズのことだ。
おなじみ「和菓子のアン」シリーズ。これも大好き。デパートの和菓子店舗に勤めるアンが解明する和菓子の謎。和菓子のおいしさを文章だけで表現できるなんてすごい才能だ。
地の文が主人公女の子の口調になるのはこの本も同じで、さきほどの知人の「いつもの感じ」とはこの雰囲気を指している。軽妙な文章で、それが物語に適度な「軽さ」と「爽快感」を与えている。
しかし、アンは日本文化の知識を駆使した展開で平和な雰囲気にあふれているが、こちらは例えていうならジェットコースター。昨今のテレビドラマが好きそうなダイナミックな展開が読みどころのひとつ。短編形式で1話ずつ分かれているのもドラマとしてはやりやすいだろうな。
残念ながらこのドラマを見逃してしまったのだが、いまでもネットでコメントしている人からこのドラマの話題があがるところを見ると、よい作品だったのだろう。とかくNHKのドラマって、朝ドラと大河以外はあんまりニュースに取り上げられないんだよね。巻末にはみきを演じた志尊淳さんのインタビューが掲載されているが、真摯な役作りがうかがえて尊敬してしまった。
主人公のみきはアパレル会社に勤めている。見た目も心も女の子で、恋愛対象も女の子。ある日高校の同級生だった後藤が転がり込んでくる。情けない男だがなんとなくウマが合う後藤とお互いに幸せになせる合コンを作戦するがーー。
みきは友達がたくさんいるが、友達でない人からいろいろなシーンで差別的な言葉を投げかけられる。しかし投げかけるばかりではない。自分も差別的な目で見ている時もある、とみきは告白する。
そう、差別はどこにでも転がっているものなのだ。そしてその感情は人間が誰しも持っているもの。羨望のなかの嫉妬のなかの、差別だ。そうした人間のイヤな部分を容赦なく抉り出すのは、和菓子のアンでも見られた坂木作品も特徴ともいえる。
圧巻は2回目の合コンのシーン。この本も最初はまったりと始まったのだが、このあたりになると怒涛の展開。このスピード感は和菓子のアンにはないものだから、アンから入った人はぜひ楽しみにしていてほしい。
キラキラしたファッションと軽妙な文章の中にひそむ、ドス黒い感情。それを自分のなかに見つけてはっとさせられる本だ。