国内外の数々の賞を受賞した世界のクロサワが撮ったウズベキスタンの世界。
黒沢清監督作品「旅のおわり世界のはじまり」
テレビレポーター・葉子がやりたいこととやれることのギャップに葛藤を抱きながら異国の土地で過ごす物語。
ウズベキスタンに1か月滞在して撮影した作品だ。 ウズベキスタンの大自然、色彩溢れる街並み、伝統刺繍に彩られたインテリア。すべてが葉子役の前田敦子さんと融合するかのように、前田さんは自然にそこにいる。
色鮮やかなバザールでカメラを手に歩き回るシーンも美しかった。
ヤマギワMVPは前田敦子さん。気合の入った演技をしているわけでもない印象があるのだが、じゃあどんな女優さんが 代わりを務められるかを考えたら、誰も思い浮かばなかった。
前田さんの持つ陶器のような質感と、誰にも寄り添わせない、でも一人で立ってたら倒れそうな、危うい空気がスクリーンの中で強く輝くからだと思う。
ただ、共演している加瀬亮さんや染谷将太さん、塚本時生さんの魅力がいまいち生かされていないことが気になった。どんな役者さんがやっても同じだったような。海街ダイアリーでは加瀬亮さんの出番はわずかだったけど、ちゃんと物語の骨格を担う感じはしたんだけどな。
愛の讃歌を歌う意味もいまいちピンとこなかった。歌うということは葉子の狂おしいほどにやりたいことだったはず。1回目の歌うシーンと2回目の歌うシーンは違う思いであっただろうし、その違いがあれば納得感があったのに。
でもウズベキスタンの埃っぽい空気感は存分に感じられたなあ。葉子が慣れない土地で四苦八苦しながらも淡々と過ごしている雰囲気も素敵だった。
そしてこの日はスイスのロカルノ映画祭からの凱旋記念として、前田敦子さんと黒沢清監督のトークイベントが開催された。こんな小さな劇場で、監督さんと女優さんを身近に見れるなんて、贅沢贅沢。
「現地ではウズベキスタンと日本の友好と平和への祈りが込められていると評価を受けた。自分ではそんなつもりでは作っていなかったけど・・・」と黒沢監督。優しそうな方で、お話も面白かった。
AKB時代の握手会では「塩対応のあっちゃん」とファンから評されていたし、この劇中でも終始不機嫌な表情だったのだが、現実世界の前田さんは観客の反応にも細やかに対応していて、とても素敵な方だった。「スイスでも黒沢監督のことをみんな知っていて、改めて偉大さを知った」とコメント。
「いや~映画祭の時だけですよ、監督をちやほやしてくれるのは。いつもは舞台挨拶でも端っこに立たされて、映像で切られたりしますからね」と黒沢監督。
いまさらだけど、映画を見に行くと意外に作り手の生の声が聴けるのね。