私は母が関西の出身で、母系の親族の多くは関西にいる。修学旅行も京都・奈良だったし。そんな縁もあって京都に何度も行ってるのだが、嵐電乗ったことなかったな。
鈴木卓爾監督作品「嵐電」
嵐電は嵐山駅を起点に、嵐山本線と北野線に分かれる。映画にも出てくるが、帷子ノ辻駅や、御室仁和寺駅など駅名も雅だわ。
この映画は「北白川派」というらしい。 京都造形芸術大学 の学生とプロのスタッフ・キャストが映画を作っていくというスタイルだ。カリキュラムとは別で有志を募ったとういことで学生さんも大変だが、プロと映画を作るなんて贅沢な体験だわあ。
台所事情はわからないのだが、学生と作っていくというビジネスモデルは結構有効なんじゃないかと思う。もちろん大変なことが多いのだろうが、学生の能力を伸ばせるし大学の宣伝にもなる。映画が公開されれば関わる学生の親兄弟親戚友達近所の人も観に来てくれるだろう。
鈴木監督は 京都造形芸術大学 の映画学科准教授でもある。鈴木監督は俳優もしており、「容疑者Xの献身」にも出演されているというから、今度観るときは監督の姿を探してみよう。
3組のカップルの物語でそれぞれにストーリーもあるのだが、途中から現実に幻が重ね合わされ、どこまでが現実かどんどんわからなくなる。最後はすっかり夢のなか。この不思議な浮遊感がこの作品の魅力だ。
それぞれのカップルの関係性も丁寧に描かれている。衛星役の井浦 新さんと斗麻子役の安部 聡子さんの夫婦の温かく親密な空気。どうやったら演技で表現できるのか、不思議でならない。南天役の窪瀬 環さんの存在感もすごかった。
ヤマギワMVPは嘉子役の大西礼芳さん。その瞳が、仕草が、佇まいが、すべてが美しい…!譜雨役の金井浩人さんと作る空気も素敵だ。 撮影所で嘉子が譜雨に方言の指導をするシーン、何気ない動きに緩急があってドキドキした。
そのぶん後半が冗長だったように感じる。この段階になると夢か現か幻かまったくわからなくなるので、ストーリーの流れがないせいだと思うのだが。この時制のゆらぎ、現実のゆらぎというのも鈴木監督ならではの作風なのだが、なかなか受け入れにくいだろうなあと思ってしまう。
でも数日経って初めてわかったのだが、映画の余韻が半端ない。不思議な浮遊感で心が空中で揺れている感じがする。この浮遊感は一見冗長と思われた後半の部分が作ってるんだろうな。
この回の上映はティーチイン付き。ティーチインの意味を知らなかったのだが、観客と登壇者が質疑応答をするという形式らしい。
鈴木監督、主演の井浦 新さんと、豪華出演陣。なんと音楽を担当したレジェンドあがた森魚さんまでいらっしゃる・・・!御年70歳だが、今でも精力的にライブ活動をされている。尊敬しかない。
印象に残ったのは、監督の「カメラマンはもう一人の役者だ」というコメント。「カメラの手持ちシーンが多かったのは理由がある?」への回答だ。カメラを人が持っていると、役者の感情を引き出しやすいとおっしゃってたと思う。
あとは生の音にこだわるというところね。タヌキが切符のハサミをカチカチするところとか。音楽も土埃のにおいがして素敵だった。
もしかして、この世界もキツネとタヌキの夢うつつかも。嵐電が走る先は天空か、過去の自分か。