苦く、苦しい感情がこみ上げる。藤井道人監督作品「青の帰り道」

藤井監督といえば、私はドラマからファンになった口で、「100万円の女たち」や「日本ボロ宿紀行」(これは監督当番制だけど)が大好き。世界観のある独特の雰囲気をまとった映像が魅力なのだ。

ということで期待いっぱいで映画館へ出かけたのだが、期待以上の作品だったのがこちら。

藤井道人監督作品「青の帰り道」

群馬県前橋市と東京を舞台にした作品。群馬の若者があるものは東京へ行き、あるものは地元に残る。あるものは挫折し、あるものは道を外し、あるものは現実と理想のはざまで苦しむ。

風景が美しい映画はたくさんあると思うのだが、この映画は部屋の中の様子を描いた映像がとても美しい。なんでだろう。光の取り入れ方なのかなあ。群馬に残ったタツオの部屋は現地の民家を借りて撮影したそうで、うっすらと埃をかぶった床とかが妙にリアルだった。

キャラクター造形も見事で、特に男性陣は大学とか、中学とかの同級生にあんな子いたよね。ワルだけど愛嬌のある子とかさ。という親近感。

そしてこの作品のために作ったんじゃないかとさえ思えるamazarashiの音楽に心が震える。なんですかこの世界の広がりようは。音楽の力って大きいわあ。「100万円の女たち」のコトリンゴの音楽もドラマの世界観に合っていて、素敵だった。

1回群馬県の前橋シネマハウスで観たのだが、その後東京で再上映されることになり、横浜流星ファンのゴルフ仲間がチケットを取ってくださったおかげで、トークショーも見ることができた。私が観た回のゲストはタツオのお父さん役の平田満さん。

なにせこのアップリンク渋谷の狭い映画館で、1番前の席に座った私。監督や平田さんと まさに 膝をつき合わせるような距離感。贅沢ですなあ。

素晴らしい映画なのだが、見終わった後でも苦く、苦しい感情がこみ上げる。映画に多幸感を求める世間では受けれられないんじゃないかと思っていた。

しかしそんなことはまったくなく、上映する映画館も広がりを見せている。よかったなあ。 やはり作品の良さと、監督が連日トークショーを多くのゲストを招いて開催していることが大きいのだと思う。

ヤマギワMVPはタツオ役の森永悠希さん。いるときもいないときも存在感があった。いないときでも心の中で感じ取れるような、そんな存在の強さがあった。タツオがひとり駅のホームにいたシーン。あのとき彼は何を思ったのか。

「救えたはず。救いたい」という思いが、若い俳優さんたちの演技で瑞々しく表現されている作品。



プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする