落語に向き合う姿がキラキラ。「現在落語論 (立川吉笑著・毎日新聞出版)」

私が落語を聞きに行くようになったのは実はついつい最近のことだ。それまで落語は笑点の大喜利のことだと思ってた・・・(汗)。だが、地元で立川談四楼座長公演を観て「落語って楽しい~!」と思うようになり、公演があると聞けば足を運ぶようになった。そしてもっと落語のことを知りたいなーと思って買った本。

現在落語論 (立川吉笑著・毎日新聞出版)

落語とは何なのか?落語だからこそできることは何か?ということを明快な論旨でわかりやすく説明された本だ。現代の落語には「伝統芸能」と「大衆芸能」の2面性があるが、最近では「伝統芸能化」する傾向がある。でも落語はそもそも前提知識なしに楽しめるものだから大衆芸能の面に重きを置きたいという筆者の姿勢には共感しかない。
本当はもっとファンが増えてもいいんじゃないかと思うが、テレビ放映は長講だと特に厳しいし、地方では毎日のように落語をやっているというわけでもない。基本的に広がりにくい形態なんだよね。
前座さんと呼ばれる若手の落語家さんだと1,000円くらい、大御所でも4,000円くらいで楽しめるという、庶民にはありがたい娯楽。落語家さんは大変だと思うが、これからも値段が上がってもいいから末永く続けてほしい。

筆者・立川吉笑氏はどんな人?

立川吉笑氏は1984年生まれの京都市出身。お笑い芸人を志したのち、2010年に立川談笑師匠に入門。お笑い芸人時代の試行錯誤や談笑師匠に入門を許された瞬間など、いろいろな経験といろいろな出会いがあって今の吉笑さんがあるんだろうなあ、と感じさせる自叙伝的な内容がこの本の後半にはある。

吉笑さんのことを直接知っているわけではもちろんないのだが、私の吉笑さんの印象は「仕事のデキる人」だ。公演の申し込みをしたらご本人からメールが来た(いやご本人とは限らないのだが)。しかもメールの返信がむっちゃ速い。メールの返信が速い人に仕事のできない人はいないというのが私の持論。メールをめんどくさがる某ライターに爪の垢を煎じて飲ませたい。

落語を演じるだけではなく、落語の創作も手がけている。落語とは何なのかその構造を見抜き、その特性を生かした創作をしている。さらにご自身の落語をコンテンツとしたオンラインサロンを運営し、公演では安定した集客力を誇る。さらにさらに締切前の3分間で原稿を書き上げる。
しめきりにまにあわない、あぶない なぜかたすかった|エンタメ!|NIKKEI STYLE
う~ん。ちんたら書いている某ライターに爪の垢を煎じて飲ませたい。

その他に「吉笑ゼミ」を開催し、若手学者の講義を聞いて学んだ内容を落語で一席、なんて先進的な取り組みもしている。縦横無尽の活躍はここには書ききれない。

そんなデキる落語家吉笑氏が落語の基本のキを自身の作品を交えながら解説している。

マクラは何のためにあるのか?

第1章「落語とはどういうものか」。昔からの噺が脈々と受け継がれている中で新作落語が作られるのはなぜか。こうした落語の基本がわかりやすく説明されている。その中で大きくページを割いて語られているのが「マクラは何のためにあるのか」だ。
マクラとは、落語の本題のお話に入る前にする小話のことだ。吉笑氏はこれを「自己紹介」と位置づける。立川志の舗師匠のように手練れの落語家は、客席の反応をみながら、自分の持つたくさんの引き出しから縦横無尽にネタを取り出して瞬時に組み合わせるのだという。しかもその後に続く本題の噺の根幹に関連するものを、だ。

それ以外にも「幻想マクラ」「フェイントマクラ」と吉笑氏独特のネーミングで分類しながら詳しく解説する。
正直マクラっていらないんじゃないか?そこで笑いをとるって本筋から外れてるんじゃないか?と思っていたが、この本を読んで腑に落ち、実際に本題に続くマクラを面白く聞けるようになった。

新作落語のネタ作り

第三章「落語と向き合う」。受け継がれた古典落語にどのようなテーマを見出すのか?対して新作落語はどうあるべきなのか?について独自の見解を展開する。吉笑さんが実際に作った新作落語「舌打たず」の台本を公開しており、ところどころ注釈を入れているのが面白い。
この「舌打たず」は残念ながら実際に聞いたことはないが、NHKのドラマで落語家の役で出演したときに、「舌打たず」をしれっとやったら、古典落語でないことがバレて怒られたみたいなエピソードを吉笑さんが「マクラ」で話していた。
立川流に入門した人が一番最初に覚える古典落語「道灌(どうかん)」と出だしはほぼ一緒だ。道灌は、武人・太田道灌が雨具を借りに立ち寄った時の少女の粋な対応をご隠居から聞いた八五郎がその真似をしようとしてうまくいかない物語だ。この八五郎がご隠居を訪ねるくだりで、「あ、これは道灌か」と思わせといて、意外な展開を見せることを狙って作った作品だ。

キラキラして落語に取り組む姿

第四章「落語家の現在」。この本の最大の読みどころは、この章のキラッキラ感だ。
お笑い芸人を目指し活動していたときのこと、立川志の舗師匠のCDを買ったときからの落語への思い、談笑師匠との出会い。
談笑師匠から弟子と認められた時のエピソードが日記として記載されているのだが、このキラキラ感がとても素敵だ。
落語という笑いの表現に挑戦するために、新たな一歩を踏み出しす支えてくれる師匠がいる。今まで私が忘れていた新しいことに挑戦する喜びや、尊敬する人に出会える幸せをあふれんばかりの情熱をこめて書き綴った章になっている。

吉笑さんは新作落語を多く手掛けるので、古典落語の解説や、過去の名人とかという説明はなく、落語の全体像をつかみたいという時に向く本ではない。でもこのキラキラ感はぜひ本を読んで直に感じ取ってほしい。

プロフィール
提出用写真フリーライター 山際貴子 東京都中野区在住のフリーライターです。 IT系を中心に企業取材、インタビュー、コラム執筆を行っています。お仕事のご依頼はこちらからお願いします!→お問い合わせ

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