「ちょっと~顔がしかめっ面になってるよ」旅のお供にこの本を読んでいたら言われた言葉。本を読んでいて知らず知らずのうちに顔をしかめていたらしい。ん?待てよ。このイヤ~な感じ、どこかで経験したような。
おおっ、思い出した!
50万部のベストセラーとなった「殺人鬼フジコの衝動」(徳間文庫)。この本によっていやな気持になる後味の悪いミステリー「イヤミス」の分野が誕生したように思う。この本を読んだのは、発行時期から考えると7、8年前なのだが、もっと前の気がする。読んだときは衝撃だったな~。気持ちいいほどいやな気持にしかならない。
「こんな気持ちにさせるなんて、どんだけ力量があるんだよ~!」
と作者の技量に脱帽しつつも、あまりにもいやな気持になりすぎて他の作品を読んでみようという気にならなかった。
しかしそんなこともすっかり忘れていたのが功を奏して手に取ったこの作品は、確かにいやな気持にはなったのだが、見事にエンターテイメントに昇華されていて読みごたえがあった。
眉間にシワを作りつつ、楽しく読んでいる自分がいたのだ。
「みんな邪魔」(真梨幸子著・幻冬舎文庫)
女帝のマルグリット、女教皇のジゼル、道化師のミレーユ、奇術師のシルビア、愚者のエミリー、そして恋人のガブリエル。少女漫画「青い瞳のジャンヌ」のファンクラブの中から選ばれし幹事で「青い6人会」と呼ばれる。ファンにとって幹事になることは名誉あることだ。
そんな幹事に新たに抜擢されたのがファンクラブの会員となってたった半年のエミリーこと枝美子だ。毎日のように投稿した漫画が評判を呼び、原作者の表現をもっとも忠実に再現できる人として認められたのだ。働かない夫に絶望した生活のなかで6人会の活動は唯一の希望だった。
そんな時にあるメンバーが失踪する。それぞれに闇をかかえた女たちの歯車が狂いだすーー。
文庫の発刊にともなって今のタイトルに改変したという。「更年期少女」の方が物語の内容に合っていたと思うのだが。
小さなコミュニティの「あるある」
おばさんが少女漫画なんてイタいのだが、若くて美しいガブリエルを取り巻く嫉妬、才能に対する嫉妬もコミュニティにはよくあることだ。
アイドル的な存在の人がいて、その人と疑似恋愛を楽しんだり、その人と仲良くしている人に嫉妬したりするなんて、なんだか少女時代を思い出すわ~。歳を取ったら仕事やら家族のサポートやら責任をどんどん背負っていくから、そんな感情も薄れるのだが、
何らかの序列ができ、序列ができる過程で日の目を見ない人は巧妙な嫌がらせをする。嫉妬を内に押し込めた振る舞いにはできれば近づきたくないが、じゃあ私が同じことをしていないかというとまったくもって自信がない。
個人の抱える闇
そして作者が描く個人の抱える「闇」はドラマチックな加工はしているものの、真実を外していない。この暗闇はとても私の近くにあるように感じられる。おそらく誰でも同じ経験はあるかわからないが、6人が繰り広げる悲劇を近しいものに感じているはずだ。だから人間のブラックな面を直視していやな気持になってもなお、熱い支持が得られているのだろう。
幹部6人がそれぞれ闇を抱えながら、泥沼に落ちていく、この落ちざまの描写力はさすがのイヤミス女王だ。
独創的な構成
この物語は7章の構成で、最初が「青い六人会」「エミリーとシルビア」「ミレーユ」「ジゼル」「マルグリット」「ガブリエル」そして最終章が「青い六人会」で締めくくられる。この中で6人の闇が語られていくのだが、なぜ最初だけ「エミリーとシルビア」と2人でひとくくりなんだ?それは最終章で明らかになる。
そして始めと終わりのタイトルが同じなのもなかなか意味深だ。まるでまた同じことが繰り返されるのを示唆しているかのように。
月刊「アングラカングラ」の座談会を合間合間に挟んでいくのも心憎い。物語の進行をさりげなく解説しており、読者の理解を手助けしている。そしてその座談会も物語に絡んでいく。
改めて読み直してみると、やっぱり目を背けたくなる描写満載だ。それでも面白く読めたのは、題材が夢と希望の世界である少女漫画だったからではないだろうか。夢と希望のある架空の世界と現実を醜くさらけ出した架空の世界。この二つの世界を融合することで、心の重さが少しだけ軽くなる。
現実のような、夢の世界のような、熱に浮かされる感覚が味わえる。