量子コンピューターって、従来コンピューターとどう違う?

こころみマガジン

先日読んだ本。

「タングル」(真山仁著・小学館文庫)

真山さんの代表作といえば、「ハゲタカ」シリーズ。作中に日光の戦場ヶ原でハゲタカが現れるシーンがあって、冬の日光に行ってみたこともある(残念ながらハゲタカを見ることはできなかった)。

企業の生々しいやり取りを臨場感たっぷりに表現する技術は、真山さんの真骨頂。「タングル」も例にもれず、シンガポールと日本の合同プロジェクトに関わる人々の悪戦苦闘を、まるで見てきたかのように書いている。

この作品に登場する早乙女教授は、光量子コンピューターの第一人者だ。

資金難に直面し、日本とシンガポールの共同プロジェクトに招かれ、シンガポールに拠点を移す。その後、出資してくれるファンドを探し出し、スタートアップを設立する。

その資金を提供したのが、まさかの「あの人」なのだが…。これは読んでのお楽しみ。

この早乙女教授には、モデルがいる。東京大学教授であり、光量子コンピューターのスタートアップ
OptQC株式会社で取締役を務める古澤 明氏だ。

著者は直接古澤氏に取材協力をお願いしたそうで、この本には古澤氏の解説も収められている。                                                                                                                                                                                                                                                                       

ということで、本題に戻ろう。

量子コンピューターとは

量子コンピューターは、今運用されている暗号を解いてしまうと言われている。

現在の暗号は、ざっくりというと、「解くのに天文学的な時間がかかる」というもの。でも量子コンピューターの処理能力があれば、現実的な時間で解けるということになる。

そのため、ビットコインのセキュリティが(このままだと)維持できず、価値が下がるという見立てもある。

従来のコンピューターは、トランジスタのオンとオフだけで成り立っている。オンは「1」、オフは「0」。AIの推論も、最終的には「0」「1」の二進数に変換されて処理されるし、あなたが見ているこの画面は、二進数から変換されて表示されている。

情報量、処理する量は、文字しか表示せず、AIも実用化されていなかった1990年代と比較すると、指数関数的に増えている。

これを賄うには、トランジスタを並列に増やさなければならず、増やすためにはトランジスタを小型化しなければいけない。

でも小型化するのも限界があるよね…ということで生まれたのが量子コンピューターだ。

量子の性質を使えば、従来よりもはるかに多くの情報を保持でき、一気に並列で処理できる。

量子は「重ね合わせ」という状態があり、複数の状態も持ち合わせることができ、観測した時点で値が決まる。

量子は、物理的に離れている量子と「量子もつれ」の状態になっていれば、片方の値が決まると、遠く離れているもう片方も同じ値になるという。

ある量子を観測して「0」なら、量子もつれ状態の量子は「0」に自動的に決まる。

この現象を活用すれば、並列で一気に処理できる。1万年かかる問題を1秒で解けるとも言われる。

従来の計算処理能力を上げるというのではなく、複数の状態を持ち合わせる量子の性質を生かすことで、膨大なパターンから条件に合うものを効率的に絞り込める。

光量子コンピューターの可能性

「量子コンピューター=超電導方式」と私は思っていた。

超電導方式が主流であるのは間違いないが、その他にもイオンや光などを使うものがある。

特に光を使う「光量子コンピューター」が実用化されれば、日本の研究者が脚光を浴びる。「タングル」に出てくる早乙女教授のように。

光量子コンピューターは、ひとつの光信号に多くの情報を持たせることができる。これは光通信で培われた技術を使える。

超電導というと、量子を運動させないために、絶対零度-273.15℃に保たなければならない。

となると、かなり大がかりな設備が必要になる。

それに対して光量子コンピューターは常温で稼働できるというのは大きなメリットだ。

何より、「アナログ」というコンセプトが存在感ある。

従来のコンピューターは「0」か「1」の状態しか持てないが、量子コンピューターは複数の状態を持てる。

ただそれを「量子ビット」としてしまうと、従来のコンピューターが「0」「1」に変換しているように、結局、量子ビットに変換しなければならない。

これがすごく処理に負荷がかかり、電気代がかかる。

今AIが画像を見て「犬」か「猫」かを判定するのに、原子力発電所ぐらいの電力がかかるとされる。

人間の頭脳が動くために必要なエネルギーは、おにぎり1個分もいらないぐらい。

アナログの方が、はるかに電力を必要としないということになる。

光量子コンピューターは、光の波のアナログな値で情報を持つことができる。デジタルに変換する必要がないのだ。

使い分けが進みそう

光量子コンピューターであれば、日本が強い!ということで、日本の技術が脚光を浴びるのも楽しみ。

従来型コンピューターの処理能力の天井が見えているし、電気を使いすぎる。

ということになれば、量子コンピューターの従来コンピューターの使い分けが今後進むのではないか。

遠く離れた相手に、自分が伝わる量子テレ歩テーション。量子の世界は魅力的。