食事のシーンとセックスシーンしか出てこないとウワサのこの映画。観るのに勇気がいったのだが、意外と2人の関係性が面白くて瑞々しい作品だった。
荒井晴彦監督作品「火口のふたり」
白石一文さん原作でこれから読む予定。白石さんの美しい文章が好きだが、何となく最近は読んでいなかった。今も精力的に作品を発表されていて、魅力的なタイトル名ばかり。これを機にいろいろ読んでみたい。
この作品は一言でいうとやけぼっくりに火が付いた物語なのだが、2人がどんな家族構成なのか、どんな人生を送ったのかがすべて2人のセリフで語られる。
そして2人がどんな関係だったのかを語るのが、2人が絡み合うモノクロの写真だ。 2人再会したときに、アルバムにあるかなりの数の写真を見るシーンがある。これは 写真家・野村佐紀子さんの撮りおろしによるもので、このまま写真集にできそうだなあ。と思ったらやはり写真集になってました。
白石一文さんの短編小説も収められている。
過去の2人の生きざまを俳優のセリフで語り、過去の2人の関係をモノクロ写真で語る。予算がなくて苦肉の策だったかもしれないが、粋ですわあ。
また出演する塚本拓さん、瀧内公美さんのセリフ回しも秀逸で、語りに心地よく身をゆだねていられる。
瀧内公美さん は「凪のお暇」でいきなり出現したように思っていたのだが、数々の賞を受賞した実力派の女優さんであった。存在感があってスラリとしたヌードも美しい。
2人が過ごす海辺の家も素敵。波の音が絶え間なく聞こえる。
物語の表現も俳優さんも舞台設定も素晴らしいのに、後半で突然秋田県PR動画みたいになったのが気になった。
県のPRとして観光地の映像を入れるのはどの作品もやっているわけだし、それ自体は良いことだと思う。自分も故郷の群馬が舞台だと観に行こうと思うし。
でもなんだか露骨というか不自然だったんだよな。前半に出てきた定食屋とか、波音の聞こえる家だけじゃだめ?その方が世界観が貫かれているように感じる。
全編にわたって表現される2人の関係性がとても好きだ。情念もなければ無機質さもない、からりとしたおかしみがある。
ヤマギワMVPは柄本佑さん。登場人物のセリフだけで過去の物語が語られるとき、役者さんの技量が必要なんだなあと実感。
この日のトークイベントで、荒井晴彦監督と青山真治監督が登壇。監督というと話が上手な方が多いのだが、この日はお2人とも黙ること数回。そんな多くを語らない荒井監督のことが好きになってしまった。
青山監督は、 いろいろなシーンのカメラワークについてコメントしていた。瀧内公美さん がヌードでベランダに出ていくシーンがベストショットだそうな。
荒井監督はネットの評価が気になるらしく「よしゃあいいのに見ちゃうんだよね~。朝イチでみて落ち込むんだよ」なんて言っていて、ますます好きになってしまうわ。
観客からの質問に優しく答える監督の姿はまさにおじさまという感じなのだが、なんと御年72歳。そのお年でこんな瑞々しい映画を作れるのか。「若かった時に撮りたかったことがこの作品で撮れている」と言っていた。
監督も言っていたが、この作品が女性から支持されるのがわかるような気がする。絡みのシーンばかりなのにイヤラシ感がまるでないのもあるけど、やはり2人の間の「愛情」を観る者が感じ取るのだと思う。
それが恋愛感情かはわからないけど。