平松監督といえば、こちらも観ましたよ。「双葉荘の友人」
26年前に同じ部屋に住んでいた人が何故か見えるようになり、友情を深めるとともに、過去の謎を解き明かしていく。
中村倫也さんはカメレオン役者だが、この作品のようなほのぼのとした人柄の役がはまっている。そして品のあるおじさまという印象の中原丈雄さんが、実に怪演であった。
いちおうサスペンスではあるのだが、人と人が大げさでなく寄り添うという温かな雰囲気に満ちている。
今回の作品も、戦時中の厳しい環境を描いたものだが、何という描写はなくても感じられる優しい世界がある。
平松 恵美子監督作品「あの日のオルガン」
戦中、若い保育士たちが幼い子どもたちと集団疎開した実話をもとにしている。まだ20代の保育士11人が 親を説得して園児53人と集団疎開する。
極度の食糧難のなか、園児たちの生活の面倒をみるのは並大抵のことではなかっただろう。「園児を親から引き離して連れてきたのは正しかったのだろうか?」保育士は何度も自らに問い、迷う。
集団疎開の話も、当初保護者からは反対の声が大きかった。東京に空襲があるなど、その時は現実味が感じられなかったからだ。保育士の楓は、子どもたちの安全を第一に考えて保護者を説得した。
疎開している間に東京大空襲があり、親を亡くした子どもたちがたくさんいた。結果的に子どもたちの命を救ったことになる。しかしその時は疎開先でも大規模な空襲があり、火の手がすぐ近くに上がるのを見て「自分たちのしてきたことは何だったのだ」と悔しさと無念をにじませる保育士・楓。
ヤマギワMVPは光枝役の大原櫻子さん。コミカルな演技が良いアクセントとなっていた。子どもたちに歌を教えるために、疎開先に古いオルガンを持ってきて、光枝が楽しそうにオルガンを弾きながら子どもたちと歌っているシーンもよかった。
戦時中の厳しい環境のなかで、こうした取り組みをしていた人がいるということを映画で伝えられるのは、意義あることだと思う。
楓役の戸田恵梨香さんが何度も口にする「子どもたちに文化的な生活を」が鈍く耳に残る。 息長く上映してほしいと願う作品。