中野監督といえば、宮沢りえさん主演の「湯を沸かすほどの熱い愛」が有名だが、私はこちらの作品も好き。「チチを撮りに」
葉月が朱肉で五本指を染めるシーンがあるのだが、その指でたばこを吸っているシーンが印象的だった。 葉月役の柳英里沙さん、今主流の女優さんにはないかわいさが大好き。もっと活躍してほしい。
この映画でも小道具が光っている。
中野量太監督作品「長いお別れ」
山崎努さん、蒼井優さん、竹内結子さんと超豪華キャスト。なんと今を時めくアラジン・中村倫也さんも蒼井さん演じる次女・芙美の彼氏・道彦役で登場。うーん贅沢な配役。
物語は、 山崎努さん演じる東 昇平が3本の傘をもって遊園地をフラフラと歩いているシーンから始まる。 足取りおぼつかなく、付き添っている人もいない。なぜ昇平はここへ来たのか。
チチを撮りにの時も思ったが、小物を印象的に使っている。誕生会のケーキだったり、お祝いのときにかぶる帽子だったり。それこそ 昇平が持つ3本のかさだったり。
昇平が万引きをしたときに、スーパーの店長が万引きした商品を邪険に扱って床に落ちるのだが、その映像が、後に入院中の昇平が手に握りしめる飴の箱とつながっている。小物は舞台装置に過ぎないのだが、中野監督の手にかかると、小物が物語を語りだす。小物の無言の語りが胸に残る。
そして、中野監督の描く家族。市井の人が苦難を明るく乗り越えていく力強さ、あたたかさ。中野監督が描く世界が私は好きだ。
ただし介護に苦しむ人が見ても、共感はできなかなーと思う。昇平は認知症が進んできていろいろと問題を起こすのだが、それでも愛すべきキャラクター性は失われていない。昇平は記憶を失っていくなかでも、家族が遭遇する苦しみ、悲しみにそっと寄り添い、心を通わせる。
それがこの作品のいいところなのだが、実際の介護では、こんな愛にあふれた生活にはならないだろうなあと思ってしまうのだ。でも、昇平がどんなに問題を起こしても、家族はそれを淡々と対応していく。私も何があっても穏やかに、淡々と向き合っていこうと思った。
ヤマギワMVPは曜子役の松原智恵子さん。かわいらしさはもちろんのこと、後半のユーモアのあるセリフまわしが秀逸だった。もちろん山崎努さんもさすがの演技。原作者の中島京子さんは「原作にあるユーモアや“おかしみ”だけは残して欲しい」と要望したというが、おかしみは山崎さんなくして表現できなかっただろう。
観ている人の鼻をすする音がたくさん聞こえた作品でもある。